【インタビュー】しほり (シンガーソングライター)

生まれつき左耳は難聴で右耳は絶対音感を持ち、歌手、シンガーソングライターとして活躍するアーティストのしほりさん。「魂鷲掴み系」と呼ばれパワフルかつ繊細な歌声を放ち、日本でひっぱりだこのさなか突然渡米を決心。ニューヨーク移住3年目を迎えた彼女の今に迫る。

17歳の時に「世の中に愛のメッセージを伝える」ために今の道を志していますが、そのきっかけは。

生まれた時から左耳が難聴でアスペルガー症候群を発症していたこともあり、自分の世界に一度没頭してしまうと他の人とコミュニュケーションがうまく取れず、勘違いされ、子供の頃は友達がいませんでした。

しかし、子供の頃から声帯模写(人の歌声・歌い方を真似ること)が得意でよく歌っていました。17歳の頃に華原朋美さんのファンで彼女の真似をして学校で歌ったことがきっかけで、校内で有名になってしまい(笑)、親友に「しほりの歌声が好き! その歌声で世界中に愛を届けてよ」と言われて、その言葉に稲妻打たれたような気持ちになり「それって最高! 歌で愛を届けたい!」って思ったのが始まりです。

音楽の道を歩まれてきた上での転機を教えて下さい。

一番は2007年のメジャーデビューかもしれません。それまではJ-POP畑で活動していたのですが、ひょんな事からアニメ音楽のレーベルのプロデューサーさんに見出されて、シンガーソングライターとしてデビューし、初めてメジャーシーンで様々な経験を積むことができました。

その後は、売れっ子声優の水樹奈々さんに楽曲が採用されたのをきっかけに、中川翔子さんやももいろクローバーZなど多くのアーティストへ楽曲提供をすることとなり、思ってもいなかった形で活動が広がりました。

日本で素晴らしいキャリアを築いている中、渡米されましたがそのきっかけは。

2013年と2014年の紅白歌合戦で私の楽曲を歌ってくれたももいろクローバーZが2015年に落選になってしまい、大きなショックを受けたことが直接のきっかけでした。その年は私にとっても特に飛躍できた時期で「作家として売れればまたアーティストとしても活躍できるよ」という周囲のアドバイスを信じて、数年ほど歌手としての活動をセーブして作家活動に邁進して、やっと再メジャーデビューの話も浮上していたのですが、大人の事情というか腑に落ちない形でなくなってしまいました。

それまでも長い間、大人の事情に振り回されてきた鬱憤が彼女らの落選のニュースをきっかけに「もう我慢できない!」と。 これからの人生を一体どうやって戦っていこうか一晩すごく悩み、翌日ニューヨークへ行くことを宣言しました。一度も行ったこともなかったんですけどね(笑)。

ニューヨークにきたばかりの頃のお話をお聞かせ下さい。

一番嬉しかったことは、自分が自分らしくいられることです。日本にいた頃に自分が思ったことを感情として表に出すと「そんな風にストレートに言っちゃよくないよ」や「こんなところで歌いださないで」とか(笑)よく叱られていましたが、ニューヨークにいると自分の気持ちや表現することに何も縛りがないというか、道端で突然踊り出しても叱られないし、生活していて自分をおさえることをわざわざしなくていいので清々しいです。

逆に苦労したことはやはり英語です。特に音楽用語や言い回しが日本と全く違ったりもして、レコーディングをするのも苦労の連続でした。日常生活においては、日本人独特の気遣いというか、相手のことを考えながら話す話し方で会話を進めていくと、話が変な方向に進んで行く時があって、自分の言いたいことをきちんと前提にして喋らないと相手を混乱させてしまうことに気がつきました。

日本にいる時は「しほりの振る舞いや思考は日本人ぽくない」って長年言われてきたのに、実際にニューヨークの人たちと会話していると、まず相手のことを思いやって会話をすすめている自分がいて「私ってすごく日本人的だったんだ」と痛感させられました。

自分がこれまで“美徳”と思って振舞ってきたことがこっちでは通用しないどころか、相手を混乱させたり、「自己主張がきちんと出来ない人」と思われてしまったり。コミュニケーションの取り方を改めて学び直しています。

ここ最近の音楽業界の変化について何か感じることはありますか?

情報や選択肢がありすぎて、誰もが音楽を作れたりする時代だから、音楽のありがたみや影響力が昔にくらべるとかなり薄れているように感じます。「どうやって音楽で食べていくことができるのか」売ることに懸命になりすぎているミュージシャンが多くて、確かに大変なのはわかるんですけど、売り方ばかり追いかけるよりも、そもそもいい音楽を作ることに注力した方がいいんじゃないかな…、と自分にも言い聞かせているところもありますが(笑)。

実際にアメリカで活動されてみていかがですか。

レコーディングにおいては、日本の音楽ファンはまだCDを買ってくれますが、ニューヨークではもう誰もCDを買わないので、まずは配信リリースに初挑戦しました。デジタルディストリビューションの手順がわからず、こちらに頼れる音楽業界のつてもなかったので、自分で英語で調べて少しづつ形にしました。

まずは2018年にEP「Angel in the Garden」をセルフプロデュースでリリース。去年はニューヨーク現地の音楽プロデューサーと制作した1枚目のシングル「Let me go」と、2枚目のシングル「Jungle-Cyber Mix-」は日本の仕事で知り合ったDJで音楽プロデューサーのTeddyLoid氏に編曲をお願いしてリリースしました。

慣れない環境での制作とリリースすることでいっぱいいっぱいで、プロモーションが全くできなかったので、正直達成感よりも次回への反省が多いです。

ライブにおいては日本で数多くのステージをこなした経験があるおかげで、ニューヨークにきても自分らしくパフォーマンスすることができています。最初は私の英語が拙すぎて、周囲の人も私が何を話しているのかあまりわからなかったようですが(笑)、日本よりも度胸を評価してくれるように感じるのが嬉しい点です。

度胸は大事ですね。 それと、日本ではアニメ音楽業界が昔と比べるとやや下降気味なのに対して、アメリカでは逆にNetflixの影響でここ数年さらに人気が上がっていて、嬉しいことに私が書いた曲を知っているファンも多く、日本で頑張ってキャリアを築いてきてよかったなと思っています。

これから挑戦してみたいことは。

英語での作詞にもっと取り組んでいきたいです。「自分らしさ」という面では日本語の歌詞の方がもちろんやりやすいです。しかしやはり、アメリカのオーディエンスにもしっかりと伝わる言葉で表現ができたらいいなと。

また、日本でも深刻な問題になっていますが、虐待被害を受けた子供たちを救う活動に歌を通して関わっていきたいです。歌手を志すきっかけとなった「愛のメッセージを伝える」ということを本当に形にしていきたいなと思っています。

最近注目しているアーティストはいらっしゃいますか?

ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)です。彼女には衝撃をうけました。

これからNYで頑張ろうと思う若い世代にひと言お願いします。

私はまだまだ新参者なので大きなことは言えませんが、日々の生活に疲れている方って最近多いような気がするので、 どんな時も周りを気にせず「自分が好きなこと」を大切にしてほしいですね。

休日はどんな風に過ごされていますか?

昨年末に作家デビュー10周年記念として初のセルフカバーアルバム「SHIHORISM」をCD発売し、2月7日にデジタルリリースしたところなんですけど、制作費をクラウドファンディングで集めたので、支援していただいた方へのリターンの作業を地道にこなしています。

「しほりからのラブレター」というコースがあるので、ずっとカフェでお手紙を書いていたり(笑)あまり休日らしい休日はないですが、かなりインドアなので、時間ができるとNetflixで映画を観たりしています。ストーリー摂取が趣味です。

ニューヨークで好きなレストランやバーを教えてください。

最近行ったコリアンタウンにある「ファイブ・センスズ(Five Senses)」のカンジャン・ケジャンが美味しかったのでまた行きたいです。

最近よく使うお気に入りアプリは?

「ビデオリープ (Videoleap)」という動画編集アプリです。Youtubeにアップする動画は全てこれで編集作業しています。

 



プロフィール
しほり(Shihori)
Webサイト
 

生まれつき左耳は難聴で右耳は絶対音感を持ち、歌手、シンガーソングライターとして活躍。2002年にゼクシィCMソング「パパパパーンの歌」歌唱で話題になり、2007年には「瀬名」名義でシンガーソングライターとしてメジャーデビュー。3rdシングル「Never End Wonderland」がオリコン5位を獲得。2009年より作家としても活躍を広げ、水樹奈々、中川翔子、ももいろクローバーZなどへ100曲以上を提供。2018年より活動の拠点をニューヨークに移す。

 

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