大分県の普通の公立高校からわずか1年弱の準備期間で、超名門ハーバード大学に進学したバイオリニストの廣津留すみれさん。現在はニューヨークを拠点にバイオリニスト、また音楽クリエイター、起業家、執筆家として多岐に渡り活躍している。今回はそんな彼女の今とこれからについてインタビュー。
- 1 最近の活動について教えて下さい。
- 2 音楽のジャンルやお仕事の内容がとても幅広く、新しいものへのチャレンジ精神がすごいですね! どのように視野を広げていられるのですか?
- 3 音楽の道を歩まれてきた上でご自身の転機を教えて下さい。
- 4 ジュリアードに入る時に何か大変だったことはりますか?
- 5 ハーバードに入るのも大変ですよね。
- 6 すみれさんの中で一番嬉しかったことは。
- 7 これから挑戦してみたいことは?
- 8 多忙なスケジュールやタスクをこなす上で、何か工夫されていることはありますか?
- 9 集中力がきれてくることはありませんか?
- 10 今現在すみれさんが注目しているアーティストはいらっしゃいますか?
- 11 すみれさんが尊敬する方はどなたですか?
- 12 これからすみれさんの様に音楽の道に進もうとしている若い世代の人たちに一言お願いします。
- 13 ニューヨークで好きなレストラン、バーは?
- 14 最近よく使うアプリは?
最近の活動について教えて下さい。
活動のメインはバイオリニストで、アメリカではカルテットの一員としてやソロで色々な音楽祭で演奏しています。日本では今年の10月にソロでコンチェルトを弾かせてもらえる機会があるので楽しみです。 他には、テキサスのサンアントニオで「クラシカル ミュージック インスティトュート」という、主に低所得層の子供たちに学校から貸与される楽器を使ってオーケストラ音楽を学ぶプログラムに講師として参加しています。
毎年夏には地元・大分で教育プログラムを開催していて、今年で7年目を迎えました。 ハーバード生を10人招待して、世界中から集まる小中高生100人以上に英語でプログラミングやライティングなどのワークショップを教えています。
音楽のジャンルやお仕事の内容がとても幅広く、新しいものへのチャレンジ精神がすごいですね! どのように視野を広げていられるのですか?
シンプルに、今までやった事がない事にチャレンジするのは好きです。今年2月に自分の本を出版した時も最初出版社の方からオファーいただいて、純粋に興味が湧いたので。気になったらとりあえず挑戦してみるのは私のポリシーなんです。ですが、自分でイメージをしてみて「これは違うな」と感じた時はやらないです。
実行する前にリサーチやシミュレーションを頭でしておくと、本番で変に緊張することがなく落ち着いていけるので、どんな時でも必ずシミュレーションはやります。 それと人脈も大きく関係していると思います。
ちょうど今準備しているタンゴの演奏会に関しては、グラミー賞を受賞した方と以前たまたま一緒に演奏する機会があり、そこからの縁でその方が主催する音楽祭に呼んでいただき、タンゴミュージシャンたちとの親交が深まって、今はアルゼンチン人の仲間とタンゴを全米各地で演奏しています。
これまでにビデオゲームのサウンドトラックを演奏したり、ジャズやタンゴなど幅広いジャンルを演奏したりしましたが、常にアンテナを広げておくと、なんらかのタイミングで新しいチャンスが生まれたりするので、声をかけていただけるお話はひとつひとつ大事にしています。大小規模関係なく演奏はどれも120%全力で挑みます。
音楽の道を歩まれてきた上でご自身の転機を教えて下さい。
2015年にチェリストのヨーヨー・マさん(Yo-Yo Ma)(※1)と初共演をしたのですが、それはとても大きかったです。
どうして私を見つけていただいたかというと、ハーバードでたまたま演奏していた時にたまたまヨーヨー・マさん主宰のアンサンブルのディレクターが私の演奏を聴いていて、私に興味を持っていただきそこから彼と一緒に共演することになりました。 実はハーバードに進む時、音楽をやるというつもりで来たわけではなかったので、 最初の専攻は応用数学で、そこから社会学やグローバルヘルス、音楽など、色々と専攻を変えていました。
ボストンは音楽の街だし、ハーバードは課外活動への取り組みが素晴らしく、それに惹かれて進学したので、勉強は勉強、音楽は音楽と分けてちゃんと両立させて学生生活を楽しむというスタンスでした。
しかし、私は2歳からバイオリンを弾いてますが、ヨーヨー・マさんとの出会いでまた改めて音楽の素晴らしさを実感して「一生弾き続けたい」と思いました。大分にいた頃は小・中・高と公立の学校に通い、音楽専門の学校に通っていたわけではないので、そこで改めてきちんと学校で音楽を学びたいなと思い、そこからジュリアードへの進学を決心しました。
ジュリアードに入る時に何か大変だったことはりますか?
ひたすら練習に励みました。 ハーバード時代は学校の中のオーケストラで弾く機会が多かったですが、ジュリアードは入るにあたって、10分ほどあるオーディションに全てがかかっているので、とにかく毎日毎日練習しました。
1時間半くらいある課題曲から、その場で指定されたパートを弾くので、どのパートを言われてもすぐ完璧に弾けるように猛練習して、完璧に全てのコンディションを整え、メンタルも鍛えてオーディションに挑みました。
ハーバードに入るのも大変ですよね。
大学受験の時、もちろんハーバードが本命でしたが、日本の大学の受験勉強もしていて、日本用とアメリカ用それぞれの受験対策をしなければならなくて大変でした。 ハーバードを受験すると決めたのが高校2年生の時だったので、実際の準備期間が1年もないくらいの状況で、両親は「いいんじゃない、頑張ってね」って感じにあっさりしてて(笑)。
学校の三者面談で進路について聞かれた時に「ハーバードに行きたいです」って言ったら先生が「前例がないので…こちらではどうしようもありません…」って困ってしまって(笑)。
自分で、どうしたら試験を日本で受けられるのかネットで調べたら色々情報が得られたので助かりました。小論文はアマゾンで参考書を購入して勉強したり、面接はスカイプだったり、ひとつひとつ自分でリサーチして準備しました。
すみれさんの中で一番嬉しかったことは。
受験に合格した時は嬉しかったです。 合格発表の朝、家族皆起きてて、私は次の日世界史のテストあるからって勉強していて、父はTVでサッカーを観ていて、母もなぜか起きていて、今思えば皆寝れなかったんでしょうね(笑)。
一睡もしてない状態で通知メールを開けたら、受かったかどうか分かりづらいような文面で、最初「ん?」っていう間があったんですけど、ちゃんと読んだら合格ということが分かって、家族皆でひと安心しました。
私は高校で文系だったんですが、ハーバード受験のために数学を独学で勉強するようになって、その時に数学の先生に大変お世話になっていたんです。合格の報告をするために職員室に行ったら、先生があからさまにソワソワしてるのが見えて(笑)、「先生、受かりました。色々有難うございました。」って言ったらすごく喜んでくれました。
先生のデスクの周りからも歓声があがった時は、自分のためにと思って頑張った受験だったけど、これだけ周りの人にサポートしてもらえて、喜んでもらえるなんてと改めて感じてすごく嬉しかったです。
ヨーヨー・マさんと演奏できた事も嬉しかったです。 彼はとてもお茶目で素敵な人なんです。演奏中にアイコンタクトで「即興してみなよ!」的な合図があって、そこで自分もそれを感じとって、うまくハマった時は気持ち良かったです。
(その瞬間ではありませんがその時のコンサートの様子。)
これから挑戦してみたいことは?
最近はアメリカでの活動が忙しく、日本になかなか帰る時間が作れなかったので、今後は日本で演奏する機会を増やしたいです。
アメリカではワークショップやレクチャーする機会を増やせたらいいなと思います。俗に“音楽プログラム”と一言いうと、演奏することがメインになりがちなんですが、音楽を通して今の時代に必要なリーダーシップやパートナーシップのあり方など、そういう内面的な部分をコーチングしたり、音楽家が触れる機会がないような教育プログラムをサポートできるシステムを作れたらいいなと思っています。
実は音楽の世界は結構視野が狭くなることも多く、今後はそれを時代のニーズに合わせて変えていきたいです。 現在、大分で取り組んでいるワークショップでは6歳から18歳(小・中・高)の生徒を年齢ではなくレベル別で分けています。実は年齢順って関係なくて、どれだけ早いうちから色々な機会に触れてきたか、また違う世代の子供達がお互いに刺激を受けることが大変重要になってきます。
ワークショップはプログラミング・ライティング・パフォーミングアーツ・プレゼンテーションスキルの4種類から選べるようになっており、1週間英語しか使わない完全英語漬けの生活になります。
ハーバード現役生講師は生徒の立場になって教えるのが本当に上手で、毎年私も一緒に教えながら多くを学んでいます。 ハーバードは将来のリーダーを育てるという方針で、チャリティーイベントや大企業のトップクラスとの交流など学校のアクティビティの中に含まれているので、そこで私はプレゼンテーションの仕方や、社交性、人脈の大切さなどコミュニケーションスキルを学ぶことができました。
特にパーティ文化のない日本で育った私は、パーティでの振る舞い方から、第一印象を良くする挨拶の工夫など、卒業したらなおさら必要不可欠になるので、それを学べてすごく良かったなと日々実感しています。
多忙なスケジュールやタスクをこなす上で、何か工夫されていることはありますか?
これはもう色々なところでも言っているのですが、「To Doリスト」と「5分間メソッド」です。 「To Doリスト」は子供の頃から続けている習慣で、やらなければならないタスクはメモに書き出し、頭の中に記憶として残しておかないようにしています。常に頭の中をクリアにしておくことで、他の重要なことに使ったり、目の前のことに集中したりしています。
「5分間のメソッド」は5分間のタイマーをセットして、ひとつのタスクをその5分集中してやることです。その間は、通知もメールもSNSもシャットアウト。
高校生の頃は、「5分間で英単語100個覚える」など実践していました。1時間で計算すると12個のタスクがこなせるんです。 私は5分ですが、人によっては時間を変えて取り組んでもいいと思います。ただし、その時間内に必ず終わらせるっていうのが絶対ルール。
集中力がきれてくることはありませんか?
ありますよ。そういう時は休憩してインスタで可愛い犬や猫の投稿を見て、癒されています(笑)。
今現在すみれさんが注目しているアーティストはいらっしゃいますか?
昔から歌手のaikoさんの大ファンで、彼女が昔からラジオでオールナイトニッポンをやっていて、それを聴いているのが好きでした。
この前、6年ぶりに一夜限りで復活した時も聴いていました。弾き語りや、テンポのいいトークに憧れて、私もいつかラジオやってみたいなあとひそかに思っています(笑)。
すみれさんが尊敬する方はどなたですか?
やっぱりヨーヨー・マさんかな。彼は私のロールモデルもあるんです。
人柄が本当に素晴らしく、人をつなげるのが得意だし、色々な慈善活動をして社会貢献もしていらっしゃるんですよ。
ここニューヨークだと、ニューヨーク・フィルのCEOをしているデボラ・ボーダ(Deborah Borda)という女性がいるんですが、元々ロサンゼルスのLAフィルのCEOで、その時にディズニーホールという素敵なコンサートホールを作たり、LAフィルのユースオーケストラを作った人でもあるんです。彼女は音楽ビジネスにおいてやり手で偉大な存在。とても憧れます。
これからすみれさんの様に音楽の道に進もうとしている若い世代の人たちに一言お願いします。
ひと言で表すと「発信してほしい! 」セルフブランディングと発信力がないと、いくら技術が優れていたり、他に劣らない才能があったとしても、知られないのでもったいないです。それは音楽業界だけではくビジネスにおいてもそうだし、どれだけ自分をアピールできるかにかかっていると思います。
合わせて自己分析も必要不可欠。自分の弱みと強みをきちんと理解して、次に自分がどんなステップを踏んだらよいか考えられる人はどんどん先をいくと思います。
ニューヨークで好きなレストラン、バーは?
86st周辺のレストランやバーに行くことが多いです。
オイスターが好きで、特にイーストコーストのオイスター!
「ザ・マーメイドイン(The Mermaid Inn)」のシーフードはどれも美味しくて、ハッピーアワーの時に行ったら$1オイスターは最低でも12個は食べちゃいます。
「アール・オー・ケー・シー(ROKC)」というジャパニーズのラーメンとオイスターと創作カクテルが楽しめるお店もおすすめですね。
最近よく使うアプリは?
「グーグル・キープ(Google Keep)」はよく使います。 スマホはピクセルを使っていますが、グーグルアシスタントがかなり優秀です。
それと、友人から教えてもらった株取引アプリの「ロビンフッド(Robinhood)」は最近使い始めてちょっとハマっています。本当にまだ始めたばかりで投資もわずかですが、株に興味をもったことで、企業のニュースにも敏感になりました。社会の仕組みを学びつつ、お金を運用することは、自分自身にとって良い投資だなって思います。
(※1:世界的に有名なチェロ演奏者。2008年に作曲したアルバム「プレイズ・ピアソラ」は世界的に大ヒットとなり、その中の「リベルタンゴ」は日本でもCMやドラマ、映画などで使われています。)
<プロフィール>
廣津留すみれ(Sumire Hirotsuru)
Webサイト
大分市出身のバイオリニスト、起業家、著作家。 ハーバード大学(学士課程)、ジュリアード音楽院(修士課程)首席卒業。現在ニューヨークを拠点に活躍中。