ここアメリカでは、出産を控えたお母さん達が産後すぐからどの様な育児を希望するか病院側に伝える機会が与えられます。
その内容には授乳の方針(完全母乳か混合か粉ミルク育児か)も問われ、入院中のお母さんに代わり病院側がその希望内容に合わせて赤ちゃんのお世話をしてくれるのです。その中に『スリープトレーニングを希望されますか?』という質問もあります。
ここアメリカでは生まれて間も無い赤ちゃんにスリープトレーニングを開始する人がたくさんいます。ここ最近では日本でも「ねんねトレーニング」や「ネントレ」といった呼び名で定着しつつあります。
スリープトレーニングとは赤ちゃんを授乳のタイミングや睡眠のサークルを毎日同じ時間に規則正しくトレーニングすることによって、産後月齢の少ない赤ちゃんでも寝かしつけをしなくてもすぐに寝てくれるようになったり、睡眠のスケジュールを一定に定めたり、授乳の周期を整えていく事です。
どうやらこのスリープトレーニングのメソッドは何種類も存在するそうで、
出産前から我が子はこのメソッドでと病院側に伝えることが可能です。
そうすると産後すぐに病院側はそのスリープトレーニングを希望するお母さんのメソッドに従って深夜の授乳のサポートをしてくれます。
私は最初このスリープトレーニングの希望の有無を聞かれた時に「生後まもない赤ん坊にスリープトレーニングなんてとんでもない!」と思っていたのが本音でした。
ところが産後3日目から誰の助けもなく私たち夫婦二人だけの育児が始まってみたら、生後間もない赤ん坊の睡眠の周期、授乳の間隔があまりにもまばらで、細切れで想像を超える現実の厳しさを目の当たりにしました。
それが毎日毎日休みもなく終わりが見えないまま永遠に続くのです。
そうして意味もなく赤ん坊は泣き続けます。
なんで泣いているかもわからないし、授乳をしてもオムツを替えてもただ泣き続ける時が毎日決まってありました。
生後2週間後から記入を始めた私の授乳メモを今見ると、15時頃から18時まで泣き続けている間ずっと授乳をしていたり、お昼の12時半から17時まで4時間半泣き続けてずっと授乳を繰り返していたという日々の記録がありました。
そしてもちろんそういった日々の夜から深夜も早朝にかけて2時間~3時間おきに授乳をしています。
3日我慢すれば1日寝れるとか無いんです。
「世界中どの国でもどの時代も関係なく育児をしてきたお母さんたちはみんなこれをしてきたんだな。
どんな人でも、誰かがその人の命をこうやって育ててきたからその人が今存在するんだな。
当たり前にみんな大人になってるんじゃ無いんだな…」
と疲労とともに痛感していた毎日でした。
産後3週間で旦那は仕事に復帰しました。
それからは朝から深夜まで毎日1人っきりでの育児が始まりました。そしてうちの息子が生後6週間になる頃、私はスリープトレーニングを決意しました。
「この月齢で寝れないのは当たり前だけど、睡眠の周期や授乳の時間が一定になればもう少し私も楽になれるし、赤ん坊にとってもしっかりした睡眠の周期を作ってあげることが今後の成長に良い影響を与えるかも…」
いよいよ我が家のスリープトレーニングがスタート!
ネットからスリープトレーニングの情報を集めジーナ式というスリープトレーニングを開始しました。ジーナ式では数十分単位で赤ん坊の授乳、睡眠、母親の生活スケジュールが全て細かく決まっています。
最初の何日かはなかなかうまくいかず、よく泣いていましたが、数日もすれば段々とスケジュール通りに寝てくれて授乳の周期もトレーニング開始前よりは落ち着いてきました。
何日目かには夜通し眠れるようになる赤ちゃんもいるそうですが、うちの場合はスリープトレーニング開始後も深夜から早朝まで2回は起きてその度に授乳をしていました。ですが、日中のお昼寝のタイミングや授乳のタイミングがだんだんと整ってきました。
その当時の私は母乳と粉ミルクの混合授乳をしていて、母乳をきちんと最初に飲ませた後に、足りない分を粉ミルクで補うといったスタイルの授乳をしていました。
ところが生後10週間目を過ぎた頃から深夜から朝にかけてうちの息子がモゾモゾ音を立てて背中を擦り付けるような動作を続けるようになりました。
そして顔をゴソゴソ手で擦り付けるような動作を朝まで繰り返すようになったのです。数日後にはその動作がひどくなりしまいには泣き出してしまうという状況になってしまいました。
それまでは夜に起きるタイミングも少しづつではありますが決まってきていて段々その周期が長くなってきていて、うまくいってたはずなのにどうしたんだろう?と不思議でしょうがなかったです。
あまりにもそれが酷いのでお母さんのコミュニティサイトで育児相談を載せてみたり、ニューヨークで子育てしているママたちに相談したりしました。
だけどほとんどのママたちからは、「夜は夜で寝る時間という習慣を身につけさせるのが大切。あんまり気にしないほうがいいよ。」や、『お母さんがしっかり睡眠をとるのも大切にしないと。』など、あんまり神経質にならないようにと優しく励ましてもらいました。
私も私で「そういうもんか。これがスリープトレーニングというものなら、私もすぐに抱いたり起きたりせずに息子に夜は寝かせる習慣をつけさせよう…」
とゴソゴソ深夜から動き続ける息子をそのままにしていたのです。
生後8週目の検診で息子の頬っぺたが赤く炎症していたので私はそれがとても心配でドクターにすぐに相談しましたが、「あんまり神経質にならないように。特に何にもしなくていいです。今の時点では何の問題もないから。」と言われただけでした。
「私が神経質になりすぎてるのかな…」
と毎晩体をこすりつけては泣き出す我が子を見つめながらとても不安で毎晩全く寝れませんでした。
そうして生後12週間目になる前に息子の顔は瞼まで真っ赤にパンパンに腫れて耳の付け根から黄色い汁が出てきて、真っ赤な火傷のようなただれが身体中の関節、お腹背中にも広がっているのを発見しました。それを発見してすぐに私はアトピーだなと直感で分かりました。
私の兄も小さな頃から重度のアトピーを患っており、毎晩夜に体をかきむしりながら泣いていたのを未だに覚えていたからです。
その日のうちにすぐにドクターとかかりつけのホリスティックドクター(自然療法士)にもアポイントメントをとりました。
息子の手を握り泣いたり励ましたりの日々がスタート!
食物アレルギーから発症したアトピー性皮膚炎と診断され、アレルーギー源除去食の完全母乳育児に切り替えとなりました。
授乳を経験している方はご存知だと思いますが、粉ミルクは母乳に比べて赤ん坊の身体に消化されるのに時間がかかるため、粉ミルクの方がお腹がいっぱいになりやすく、授乳期間も少し時間を空けなければいけません。
それに比べて母乳は消化がとても良いため粉ミルクよりも授乳期間が短いのです。
母乳だけを飲む赤ん坊には欲しがるだけ母乳を飲ませないといけません。
赤ちゃんの方も粉ミルクに比べて早くお腹が空くので授乳回数がどうしても増えてしまいます。
スリープトレーニングで決められた授乳回数だけでは、お腹が空いてしまってすぐに泣き出してしまうようになりました。
そして、私の体も彼のお腹を満たすだけの母乳が出せる体になっていなかったのか搾乳してもあまり母乳が出ていませんでした。
もうスリープトレーニングのスケジュールをそっちのけで、何度でも頻繁に母乳を吸わせ私の体を母乳を沢山作る体にしないといけなくなりました。
最初の3~4日は母乳だけでは足らず息子はずっとギャン泣きでアレルギー専用の粉ミルクをほんの3ozだけ飲ませた途端に治っていて顔の腫れが一気に戻り、瞼まで晴れ上がってしまい私もパニックに陥ってしまったほどです。
お腹いっぱいに母乳を飲ませてあげられない事が母親の私を精神的に追い詰めていきました。
そして我が子にアトピーを発症させてから私はスリープトレーニングに必死になっていた自分を毎日責めていました。
毎日ネットでネントレをしている人たちのブログや内容を読みあさり、自分の赤ん坊はそれと比べてどうかとかいつも気にしていました。
睡眠の周期を規則正しくするのに必死で、生後間もない息子が体の痒さに苦しんでいたのをそのままにしてしまうなんて…
なんでもっと早くなんとかしてあげれなかったんだろう….
今もとても後悔しています。
みんながやっている育児のメソッドなんかよりも目の前の我が子の変化に寄り添ってあげればよかった。
それからは全力で我が子を寄り添う事を決意しました。
1日9回~10回は飲みたがるだけ授乳をし、息子が寝ている間に搾乳をして少しでも母乳を沢山作れる体を作っていきました。
夜は体を掻き始めたらその都度何度でも起きて息子の手を握り「痒いね。辛いね。マミーがすぐに気づけずにごめんね。。頑張ろうね。」と寝付くまで何度も話しかけました。
それから4か月くらいが過ぎてアトピーが治っていくにつれて夜のゴソゴソはなくなっていきました。
ですが(これはスリープトレーニングのおかげかもしれない!?)と思うこともあります。
母乳がたくさん出るようになってからはメソッドのスケジュールどうりではないにしろ、日中の授乳やお昼の時間はとても規則正しく、夜に寝る時間も定まっていました。もちろん深夜の授乳はありましたが。
今現在、息子は1歳5か月ですが、お昼寝の時間もきっちり定まってますし、夜も8時にはきっちり就寝します。生後10か月で夜間断乳をしてからは大きな夜泣きもなく朝6時から7時まではいい子で寝てくれます。
スリープトレーニングの効果も少しは影響しているかもしれませんが、この睡眠の周期は息子自身の成長とともに月齢が増えていくに従って徐々に時間をかけながら培われていったものです。
育児は本当にその子1人1人の体質や性格で全く異なるものです。
うまくメソッド通りに続けれる赤ちゃんとお母さん達に比べたら、私と息子も全然その通りには行けませんでした。
むしろ落第です(笑)。
大勢の人たちが出来ている通りにならない事なんて育児では何度となくあると思うのです。だけどそれが育児の失敗と呼べるのでしょうか?
私はそうは思いません。
私が自分の息子のアトピーの発症を経験して自ら悩み学んでいったことがあります。
この先お母さんになって生まれたての赤ん坊の育児をしていく人たちに伝えたいのは育児のメソッド通りにいかないからと言って不安になったり、自分の赤ちゃんを他の赤ちゃんと比べて落ち込んだりしないで欲しいということです。
そこにばかり気を取られていた時に比べ、しっかり我が子と向き合いながら、ゆっくり一緒にコツコツ進むんで行こうよっていう気持ちに切り替えてから私は育児が随分精神的に楽になれた気がしました。
それでも毎回育児は息子の成長とともに初めての”予想外”が沢山起きるのでアタフタして焦ることも日常茶飯事です。
でも今はスマホで大まかな科学的な根拠や理由をぱぱーっと見てある一定以上の情報を集めすぎないようにしています。
最初は初めての育児に悩み苦しんでただけの数ヶ月がありました。
その後、心の持ちようを切り替えて私が母親として笑っていられる時間が徐々に増えていき、今では育児書ではこう書いているけど自分の息子は彼のペースで少しづつ前に進んでるんだから、一緒に進もうねと焦らず穏やかな気持ちで過ごしています。